デザインの国際的情報と星の王子様Ⅰ
1994年 平成六年 四月 講話 河原 碧子
今日は刻々とかわる世界情勢の進展、変化に伴ってこれから勉強しようと志している皆さんにどの様な情報を伝えればいいのかという事について考えて見ました。国際化グローバル化に伴ってデザインの世界も時代に沿って一体化の方向で進められています。
この件についての「国際的情報」をお話したいと思います。昨年の9月英国のグラスゴーで開かれた「国際インダストリアルデザイン団体協議会(40ヶ国参加)」の総会では「世界デザイン機構」の設立が提案されました。この案は賛成多数で可決されましたが何故デザインの分野での組織の一体化が必要になったのでしょうか。
☆もともとデザインの目的は、より良く、より美しい「物」の創造を通して生活の質や人間の品位の向上を目指す事でした。しかし社会が複雑化するに従ってデザインの作業手順を如何に「迅速」に「シンプル」に調整するかという事が必要になって来ました。
☆国境を越えての物の移動や「環境」の地球規模での問題提起の調整には、「国際的な系統だった情報交換」が必要になってきました。世界の各地で頻繁に起きる「自然災害」や「民族間紛争」が原因となっている「生活環境の破壊」に対する対策も「災害のデザイン」「救急のデザイン」というテーマで研究されていますが、実際に効果が上がっているかと云うと、必ずしもそうではありません。
☆例えば被災地の救助作業に用いる緊急車両や、非常事態に備えて直ぐに設営出来る避難民用の仮設テント(キャンプ用テント、住宅用テント)や水や、食料、衣料等の調達に対応出来る「パッケージシステム」に対する提案も実際の活動をする為の夫々の機物の製造・運搬にも「国際的支援協力体制」が確立されていないと実現は不可能です。
世界中の、人類貢献の為の重要で緊急な問題、例えば「増えすぎる人間」と、「後退する自然」との調和という課題が山の様にあるにもかかわらず「デザインの世界」では、のんびりと専門分野(人間の生活に必要な物をより良く、より多く生産するプロダクト・デザイン、人間の生活に必要な事柄をより適切により広く伝達するコミュニケーションデザイン、人間の生活に必要な環境や空間を作る建築デザイン等)をタテ割りの侭、連絡のない孤立した状態を続けているのが現状です。
☆国際建築家連合、☆国際インテリアデザイナー協会、☆国際グラフィックデザイン団体協議会等「国際」とつくデザイン協会は20余りあり、その下にデザイナー、設計者と云われている人が、数百万人いるという事です。
昨年開かれた「国際インダストリアルデザイン団体協議会」の総会で、協会は地球環境問題の「デザイナーとしての社会的責任」や「人類への貢献」を強くアピールし、有効な平和的協力をしようとしました。その中でも、21世紀に向っての「地球環境問題」程世界中のデザイン界が一体になった「国境を越えた取り組み」を必要としている重要なテーマはないと思います。
デザインによる「物」や「建造物」の「素材」をどう選ぶか又、どう作り上げるか、又「建築の方法」をどう決めるかによって「環境破壊度の大小」を左右する事になる一つ一つの問題点を細かくチェックしながらの「すばやい対応」は予断を許しません。
近代デザイン発祥の地として、ドイツの「バウハウス」の創始者で建築家でもある☆ワルター・グロピウスは1920年代の初めに、すでに、個人・地域・国家・国際という同心円を描き、一番外側の「国際」が最も優先すると主張していました。デザインが「民族・国家・階級を越えた人類」に「共通の価値」を認識させる事が出来るという事は、現在でも変わりません。☆デザインの国連ともいえる「世界デザイン機構」が設立されると日本や欧米の研讃された「デザインのノウハウ」を発展途上国に伝えていく事も「大きな事業目標」です。
「物」に満ち足りていて特に欲しい物は何もない様な日本人にとって一つだけ発展途上国並みにレベルが低く欲しい物があります。それは住宅です。
☆自然とそぐわない灰色の単調な外観、うさぎ小屋、巣箱と呼ばれている狭さは経済大国と云われながら余りにも矛盾しています。日本のビルや住宅の寿命が二十年から四十年という世界でも類を見ない建て替えラッシュに支えられた未熟な経済が原因です。
☆経済だけが「唯一の目標」の様な考え方から脱却しなければ文明の崩壊を招きます。GNP(国内総生産)、消費、輸出と物の流れを大きくする事だけを考えていては文化国家とは云えません。それは経済界から依頼を受けた☆日本の建築家と云われる人々の考え方が如何に貧困ではっきりした建築に対する哲学がないことが原因です。
☆ヨーロッパの大学では建築学科は芸術学部に属しています。建築家はアーチストとして扱われているので「人間の生活の質を安定したレベルに高めていく事」が目標であるというしっかりした哲学を身につけて建物を建てています。
☆日本の建築学科は工学部に属しているのでエンジニアとして造ったり壊したりの繰り返しに何の疑問も感じていないのでしょう。先進国といわれている日本が人間の本質に関わる面として抜本的に改善すべき点だと思います。私たちが生きている内に「ゆっくりと流れる時を懐かしむ場所としての住居」を作ってほしいですね。行政面では部分的な面の改良は長い慣習を破って実行されつつあります。
☆最近で云えば郵便ポストが変わるという情報があります。郵政省では90年から新型郵便ポストの改良開発を進め取り敢えず四つのタイプで試験的に設置する事を発表しました。
改善する点は差し入れ口を「B4版」の郵便物を「折り曲げずに投函出来るサイズ」横24cmを横30cm、縦3cmにした事。更に「前後から投函できる様に」高齢者や障害者や児童が利用し易い様に「差し入れ口の高さ」を今迄の127cmから120cmに更にお年寄りの為に「手摺り」を付けた事。☆コーディング塗装をして貼り紙防止対策をした事、☆「集配作業がし易い様」に置き放し自転車が集配の邪魔にならない様「集配扉を前につけ郵便物の量に対応出来る様に」本体を普通郵便と速達瓶と定型外の連結型にし「色も今迄の色よりも、もっと赤い色を加えた4色」を作っています。
全国で郵便ポストは16万3000あり、1本のポストは平均25年使用されていて毎年5000を新しい物に交換、1000を新しく設置しています。
郵便料金も値上がりした事でそれ等の結果が街角に現れるのは間もなくです。こうして身近な物から人間に暖か味のある改善が住宅の面に於いての改良に結び付いて行く事が望まれています。
話は戻りますが国連が制定している「国際婦人年」「国際児童年」「国際住居年」「国際識字年」「国際障害者年」などのテーマを「物と環境」に置き換えた時の色々な問題に対しデザイン界はどんな提案をし実施したら良いのかが「世界デザイン機構」の目標だといえます。「地球時代のモノ文化」の在り方を真剣に考えて見ようという事をテーマに「国際デザインイヤー」を定め様という話も出ています。
☆デザインの各分野、「工業デザイン」「ビジュアルデザイン」「建築デザイン」の分野においても「デザイン振興」については、世界に冠たる「デザイン大国日本」は「国際デザインイヤー」と共に「世界デザイン機構」の招致が実現し国際的なデザイン事業の推進役になれば平和国家日本にふさわしい「世界への平和的貢献」として「国際的評価」を得ることが出来るのではと思います。
一杯の澄んだ水の為にも「老人・子供の歩行安全」を考える事も世界中とコミュニケーションを取りながら地球との繋がりも考え夫々の民族性や生活習慣を重んじ「協調の枠組み」を通じて解決していく事が、21世紀のテーマであり「デザイン」も例外ではなくなっています。