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☆ 点と線の関係は「持続することは力なり」である

点と線の関係は「持続することは力なり」である

1992年 平成四年 講話 河原 碧子

これから新しくデザインを学ぼうとする皆さんにとって、毎日の暮らしの中で過去から現在まで物の形や機能に工夫が加えられデザインされていないものは無いといっても過言ではありません。
そんな中で何を選び何を使うかは皆さんの持っているセンスにかかっています。デザインされたものには必ず「機能と美」の両方が備わっていないと完成されたとは云えません。日本人は世界の中でも「デザインの才能」に恵まれていると云われています。
☆それは日本人の性格がこまやかであると同時に手先が器用であり勤勉である事が理由に挙げられています。残された伝統的な衣装や道具を博物館や美術館で見てもわかります。
☆そこでデザインを早く確実に上達させる秘訣は何だろうと云うと物理的にも精神的にも自分自身の生活の環境づくりをする事が必要です。

☆例えば百貨店の中を隈から隅まで見て廻って、そこにある商品や展示してある飾りつけ等もじっくり観察して、心惹かれるものや美しく便利な物と、いい加減に作られた物との違いが判る事や又、街中を歩いていても優れた建築物やお洒落な店舗に目を留めたり、美術館や博物館で世界中から集められた美術品に感動したりする事も何処に行っても何を見てもデザインのヒントになるものがあって、勉強になることばかりです。
☆ごく身近なところでは、自分の住まいや部屋の中を整理整頓したり絵や器を飾ったり花や植物を置いたり、本箱や机、ベッドの置き方を考えたりと、レイアウトやセンスを磨くことが出来ます。
☆学校には年限がありますが、その間に専門の中で必要と思われる課題を出来るだけ沢山研究し、制作して下さい。短期間であっても必ず思いがけない効果を上げることが出来ます。仕事をして行く上では本当に良いものは、個人の好き嫌いは別としてやはり良いものです。皆さんが「良いものは良い」とわかる様に、一つ一つの作業を重ねて行きながらアドバイスします。

☆デザインを制作する最初の段階として「形の基本となる線」から始めます。
☆線は一つの「点」から出発しています。
☆この点と線の関係は「ものを形づくる基本」である共に人生の出発点と、その歩みに似ていると思います。
☆何かをやろうと思った時の「心に一点の決心」は、それを続けて行くことによって「一本の線」になり、その線が「何かを形にする」という事に繋がります。
☆この点と線の関係は「持続することは力なり」という昔からある言葉でも表現されています。
線には「自由に引いた線」と「定規できっちり引いた線」があります。「直線で引かれた線」と「曲線で引かれた線」の印象は全然違います。

☆線による表現も人の生き方に似ていて、時に応じ自由に使い分ける事が出来れば、心から味わい深い結果が得られるだろうと思います。
☆デザイン上の「一本の単純な線」は画面に大切な印象を与えると共に人の注意を引く役目も果たしています。キャッチフレーズの下にアンダーラインが引いてあったり重要な部分にボーダーラインが引かれているのを見ても判ります。
☆線の変形である「円」は色々な表情を持っています。線が表わす暖かさや・まろやかさ・可愛らしさ・ふっくらとした柔らかさ・豊かさ・明るさ・優しさと共に流動感や立体感も感じられ、「直線と丸みを
もつ線」の感情の違いを表わしています。線を引きながら考えるべき重要な役目についてお分かりになったと思います。

次に☆人間の生活環境や心理状態に多くの影響を与えるという理由で、現代社会ではとても関心が高くなっている「色彩(カラー)」の事に触れて見たいと思います。☆人間が実際に使っている色だけでも三百種類以上あって、それぞれの名前を覚える事は中々難しいのですが、これは教科書や実習の時間に必要に応じて配色や心理学にまで及んで学習
するので、お友達との話題も豊富になり楽しく知的な交流に発展します。☆人間が色を見る為には光が必要です。その為、目に見える光を可視光線と云います。
光には、波長があって、その波長の長さによって色は違って見えています。長い波長から順に、赤・橙・黄・緑・青・藍・紫となっています。 雨上がりの空に現れる虹の橋を見ると色の順番がよく分かります。
もう少し詳しく説明すると、光が物に当った時、その物質の性質にどの波長がどう反射、吸収するかによってそれぞれ違う色に見えているのです。

☆長い波長を沢山反射すれば赤っぽく見え短い波長を沢山反射すれば紫っぽく見えます。
☆光には色として目に見える可視光線の他に☆赤の外側の光線として温める作用のある赤外線や、紫の外側の光線として肌を黒くする作用のある紫外線があります。
☆色は学問的に、色相・明度・彩度という三つの性質に分かれています。色相(Hue)は色の名前の事です。
☆空の上から見る「虹」は円い環の様になっています。その「虹の環」を二十四に分けて「色相環」と呼んでいます。☆この色相環をマンセル表色系では100に分けて色の違いを示す学問的な「色相番号」をつけています。赤と黄と青を混ぜると、どんな色でも作る事が出来るので、この三原色の事を一次色といいます。しかし虹の七色の方が一次色だという説もあります。
☆ 次に明度(Value)は色の明るさの事です。
☆太陽スペクトルに現れていない白や黒も他の色と同じ様に見分ける事は出来るのですが「赤や青や黄色」と、その性格は違います。というのは、白や黒やグレーには「色相や彩度」が無く、「明度」だけで表現されているからです。明るいものは白く、暗いものは黒く、色の明暗を示しています。

☆白と黒の明度を表す方法は、まず黒から白の間を十一に分けます。この十一段階から白と黒を除いて残りの「9段階」を物指しにして色の明るさを計かります。明るい色を「明度が高い色」と呼んで、暗い色を「明度が低い色」と呼びます。色で濃淡を表わす時は明るい色を足したり、暗い色を足して作ります。
☆彩度(Chroma)は、色みの強さや鮮やかさを表わします。彩度の基準となる一番純粋な赤は太陽のスペクトルの中にあり、この純粋な赤からグレーに一番近い赤の間を「九つ」に分けて彩度の物差しにしています。
☆太陽スペクトルの純粋な色に白を混ぜたり黒を混ぜたり他の色を混ぜて彩度の低い色を作ります。
このような事は、沢山色を作って見て、経験を重ねるうちに色を作る「勘」が発達して来ます。
☆色相・明度・彩度を表わす段階の「濃淡」や「強弱の調子」や「色合い」の様な微妙な色の変化を色調という言葉で表します。

☆明るい色は「高い色調」 暗い色は「低い色調」と云います。
☆「暖色と寒色」の様に色の持つ雰囲気で分ける色調もあります。
☆「寒色」はグレー・青・白の様に空や水や雪を連想する色で「冷たさや寒さ」を表わす時に使います。
☆太陽や火や、春の花々の色は赤や橙、黄色の様に暖かく明るい雰囲気を持つ「暖色」で表します。
「緑色や紫色」は暖かい雰囲気を持つ色の中で使うと「暖かい」感じに見え寒い雰囲気を持つ色の中で使うと「寒い印象」に見えます。
☆今まで、簡単に色を理論的に説明しました。但し色を実際のデザインに生かすには色彩を理論的に学ぶ事だけが正しいとは言えません。

何故なら色は「神秘的」であり魔術師の様に人の心を操る面があり感覚的にも、心理的にも、影響を与えます。色が表現する千変万化の不思議さは「化粧やファッション」に応用されているばかりでなく、地球上のすべてのものに及んでいます。
☆色の性格を理解する事は、これから皆さんが色を扱う上での重要なポイントになります。「赤」という色は太陽の色として生命力に溢れて、情熱的で心を昂ぶらせ陽気で若さにあふれています。赤の種類には桜の花の様な明るいピンクから苺の様な濃い赤迄あります。
ところで日本では赤が太陽の色とされていますが「ヨーロッパでは黄色が太陽の色」と云われています。「黄色は」明るく元気で目立つ色です。オレンジがかった黄色は、真夏の強い太陽の下では鮮やかで強烈な印象を与えます。
☆皆さんご存知のゴッホの絵にも見られるのでお分かりだと思います。さらに「黄色」について云えば黄色は、他の色と混ざると色の持つ性格は全く変わってしまいます。「黄色との配色」は落ち着いたブラウンやグレーや黒などの個性的な色に合います。「金のような黄色」は、濃い紫とよく似合います。

☆「緑色」は森や木や草など新鮮で若々しい希望を表わします。「平和(オリーブ)」や「安らぎ」や「静けさ」や「穏やかさ」を表わし幸せを呼ぶ宝石の「翡翠やエメラルド」が重用されています。
☆「グリーンと白」は清潔で涼しい配色です。
☆「青」は空の色・海の色で果てしない「深さや遠さ」を感じます。静かで落ち着きのある雰囲気の服装やインテリアに用いられます。
「青」の中でも「ダークブルー」は黒とよく似た特性を持っているので、特に公式の場所では時代を問わず使われています。
☆「青」の素晴らしさを発見出来るのは、海だと思います。
「白鳥は悲しからずや 海の青、空の青にも染まずただよう」と若山牧水の短歌にも歌われています。その海面に反射する光の波の明るさ 深さには本当に心をうばわれてしまいます。

☆「紫」は「上品さや奥ゆかしさ」「優さしさ」「あでやかさ」を表わし高貴な色とされています。
☆色を想像する場合に最もわかりやすいのは「自然の風景」です。誰でも知っている唱歌「おぼろ月夜」の歌詞にある「菜の花畑に入日うすれ 見わたす山の端 かすみ深し」という歌があります。
霞のかかったうす緑の山の麓の美しいピンクの桜、畑に広がる黄色の菜の花・風景全体が美しく彩られています。
☆自然の中には「バラエティ・バランス・リズム」の他に「統一性や・適合性」があります。
☆色の使い方は、科学的な理論に裏付けられるよりも「優れた感覚の作り出す調和」の見た目の心地良さの方が大切にされます。色そのものには良い色も悪い色もありませんが、人によっては「好き嫌い」があり、配色にも好き嫌いがあると思います。
☆「上品・知的」「渋い・高尚」「清純」「生き生き」「シック」など沢山の「調和」がありますが、作品を作る場合は個人の好みではなく各自の持っている中の最高の「センス」を表現すべきでしょう。
☆デザイナーにとって大切な事は単なる「好みの問題」ではなく、洗練された「センス」に高めていく訓練をする事です。

☆その訓練は「社交・環境・趣味・育ち方・遺伝・伝統・教養等、調和の「センス」を左右します。
センスは、訓練によって磨かれていきます。日頃センスの良くないものばかりを見ていると、それが良いものだと思い込んでしまう恐れがあります。選ばれたもの、良いものを出来るだけ沢山見て少しでも工夫され洗練された趣味の良い環境で生活する様に心がける事が大切です。百の講義よりも一つの実例の方が有効なことは「百聞は一見に如かず」の諺でもわかります。よいものを見る目は「よいものを作る能力」につながります。
☆何度も云いますが「センス」はデザイナーにとっての「生命」です。「見る眼」を鍛える訓練は毎日怠らない様にしましょう。沢山「形容詞」が出てきましたが「色や形」だけでなく「言葉の意味」も理解して豊かな気持ちで勉強していきましょう。
皆さんがデザインを学ぶ上で「必要な心構えや知識の一端」をお話しましたが、どうか、初心を忘れる事なく有意義な毎日を送られる事を願って止みません。

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