これからのデザイン「夢を育てる若い芽」展を
2000年 平成十二年 講話 河原 碧子
私達は今年、西暦2000年という世界の歴史に稀有な数字の年を経験する事になりました。この事実を受け止めた私達は、後の世に残して行くべき事は何なのか余りにも突然訪れる年月の速さに戸惑うばかりです。
毎日色々な事のある今の時代を私達自身も、どう対応していけば良いのか、教える方も教えられる方も共に真剣に考えなければならない事だと思います。この学校は出来てから2000年の今年でもう三十八年にもなります。教育のポリシーとしては「広い視野と人間教育に重点を置いた豊富なカリキュラム」の考えを一貫してモットーにしてきました。知識や技術を教えるだけではなく全ての課題には夫々に思いが込められています。今地球上で大きな問題となっている「自然を中心にした人間、植物、動物、宇宙」と広い視野で物事を考えて行く目的から「何のためのデザインか」を考えて制作するように指導しています。
皆さんが、一人の人間として「世の中にどんな影響を与える仕事が出来るのか」を大切な事と自覚しながら伸び伸びと成長していって欲しいと願っています。
学びながら身に着けた「考え方や想像力や技術」でデザインを通して世の中にアピールする事で皆さんが描く「未来の夢」に結び付けていって欲しいと思います。その手段として私達はデザインを選んだのですが、どんな人生を送るとしても考え方の基本がしっかり身についていないと、仕事を最後まで続けていけないと思います。「子供の世界」も現代ではTVやゲームなどに興味の中心が移っていて自分の心を確かめ、周りを観察する暇がありません。業界はゲームを楽しむ様に働きかけていますが「自然の一部である人間」が機械で作られた映像に没頭して、日がな一日明け暮れる事は、子供心に目に見えないストレスの倍増に結びついているとしか思えません。
☆ 中でも「ドラゴンクエスト」は自分で町の中を歩いて行くので機械の中ながら、少し身近な処に引き寄せられている様な気がして楽しさがあるのでしょう。これからは想像以上に地球上のあらゆる面で波乱の多い年が続くと予測されています。「人間社会の引き起こす問題」と同時に「地球という星がもつ運命」と☆共に考えられない様な危機にさらされる事があると知っておくべきです。
☆☆ミレニアムを記念して、先頃、当校の学生の作品展を朝日ギャラリーで開催しました。☆これから学ぶ若い皆さんの夢を応援する気持と願いをこめて「夢を育てる若い芽展」と名付けました。
この展覧会を見た人達が、どのような感じを受けたかと云う事は、皆さんが今後デザインを学んでいく上で、参考になると思い纏めてみました。来場者によるアンケートでは、全体の評価の順位は、第1位「インテリアデザイン科の店舗併用住宅模型」第2位が「子供のための絵本」第3位展示用パネルとレポート「環境世界地図」、ポスター「自然に帰ろう」「包装紙デザイン」「本の装丁・挿絵」「イラストキャラクター」「会社カタログ」「街歩きガイドブック」「フィギュア作品」の順で、全体的に全部良かったというお褒めの言葉を頂いて嬉しい思いと学生の努力が報われて本当に良かったと思います。感想としては「ポスターや、動物や植物を使った装飾文字、環境問題を考える世界地図、テキスタイルデザイン、ファッションやインテリア用品の色彩や模様のアレンジをマックで仕上げた作品」や「自分が作りたい喫茶店の設計図や模型」・「自宅の改装、店舗付き住宅など三階建」の図面と模型を一階づつを開けて楽しんで貰いました。色々なものが一度に見る事が出来て大変良い刺激になった。ジュエリーデザイン、彫金の作品も綺麗だった。
☆手作りの絵本の「原画」は可愛く暖かい作品。
☆「世界環境地図」は社会問題を取り上げ研究している事がわかり素晴らしいという評価を得ました。
同じ敷地内で設計された「家の模型はそれぞれ個性的な間取りや店舗が設計」されて、夢一杯に多種多様で住んでみたくなった」と云われました。☆「年代に関係なく親しみが持てる」等
☆「広告、パンフレットのデザインもあって驚いた」
☆「色が全体に明るくてはっきりしている」
☆「力作が沢山あり作品はとても真面目でレベルが高い様に思ったのと同時に本当に心が豊かになった感じでうれしい」
☆「夢を失わずに勉強してください」
☆「発想の面白さや根気良い制作態度が素晴らしい」「細かい図柄が丁寧で吃驚した」
☆ 「わずか2年の勉強でこれだけの作品が作れると云う環境は得がたい」等
お褒めの言葉を沢山頂いたのは本当に学生達の励みになったと思いました。
その他に「文庫本の表紙」や「カラーで表現する詩のイメージ」「新聞広告」「ファッションイラスト、油絵」等もありフリーカリキュラムになってからは、流行のドールハウスを作りたいという希望も出て、一ヵ月の展覧会は終りました。
☆☆さてこれから本題に入りますが二十一世紀の日本はどうなるのでしょうか。経済や技術だけで世界に影響を与える事だけではなく優れた先進技術に加え、デザインを通して人間生活により「人間らしい感覚に「文化力」を加えて世界に貢献する努力が必要で「優れた技術と対等なデザイン」を目指して、もっとデザインの世界は頑張るべきだと思っています。
科学技術の進歩と共に自然破壊が進む社会で人間性を取り戻し消費者に本当に喜んでもらう事は物や機能を提供するよりもデザインの効果を最大限に発揮し大きく改革していく事が先決です。人間中心の生活全般を豊かにする事以上に健全な商品を提供して行かないと、企業の今後の生き残りはないでしょう。
企画デザイナーや経営者は今後の人間の消費生活の安全な指針をしっかり研究して欲しいと思います。又消費者が選びに選んで商品を買っても数か月サイクルで新製品が出てくるようでは購買する側は幾らお金があっても足りません。このような不合理な競争ではなく、もっと長く大切に使っていけるような仕組みを真心こめて企画してほしいものです。次々に新製品を作れば、パンフレット等の業界の経済効果はあるかも知れませんが地球上に及ぼす公害の事を考えれば連鎖的に人類の破滅に繋がる事にもなりかねません。デザイナーの熟練度は確かに上がっていっています。そういう面で日本ほど新製品の開発経験を積んだ国は世界中の何処を探してもないのではと思います。世界中に多くの公害をまき散らし無駄な消費をさせ、物を大切にしないと云う点では、今のところ日本は、大きな罪を犯しているのではと云えます。「モノ」を作るという事で競争するのではなくデザイナーの考え方次第で、もっと丁寧に人間らしい暖かい観点に価値基準を置いた競争に変えていく為の指導と云う大きな役割を進めて行く事が出来ます。
それは地球の資源を無駄遣いしないという観点からも大切な事項です。色と形の表面だけのデザインでは、どれもこれも一長一短でみんな似ていて決定的な差を感じる事がありません。海外では自動車を例に挙げるとベンツにしてもBMWにしてもヨーロッパではコンセプト(概念・意図)とアイデンティティー(統一性・企業戦略の概念)を重視して、大切に育てて行くというやり方です。
日本のやり方は、どこか外国の真似をしている様に思われます。日本のオリジナリティーを追求し、世界に向かって日本発の新しいデザインを発信していこうと自信を持って努力するべきです。
ソニーがデザインした自動車や、キヤノンがデザインしたテレビがあってもいいと思います。メーカーは専門の事ばかり考えていて専門バカになっているので広い範囲で物を考える事が必要です。違う業種から見れば、このデザインは一体何だろうという事もあるでしょう。そう云うことから「人間生活」という共通のテーマのもと異業種メーカーの間での協力が始まっています。例えば、料理の世界で言えば、盛り付けに重点を置いた事から本当に美味しい、素朴な旬(しゅん)のものを新鮮な良い素材で作った料理が大切だという事が判ってきました。デザインも今は見かけに重点を置く傾向がありましたが選ばれた素材の物を無駄無く生かしたオリジナリティー豊かな製品作りをする事が本当のグッドデザインだと思います。立体デザイン・平面デザインも「機能と美」の追求に加え「考え方や発想の仕方」に今後は、大きな転換の必要性が迫られています。この考え方の他に、もっと情緒的に生きたいと願っている人もいます。こういう人達は何を大切しているのでしょう。情緒的に生きるという事は日本古来、最も大切にされてきた部分だと思います。どんなにスマートでお洒落なデザインよりも大切と思っている事は心や雰囲気を大切にした細やかな気配りや暖かさで人間にとって欠かす事の出来ない大切な面です。
☆☆電脳時代が到来したからといって、人間そのものがまるまる変わる訳ではありません。はっきり云って弥生時代と生活形態の基本である衣食住の習慣が全く変わった訳ではありません。
☆☆コンピューターやインターネットの発達とは裏腹に21世紀は生き物の時代とも云われている事を冷静に受け止めましょう。経済性や効率のみを重視する余り、熟練工のリストラ化を生み、数々の交通事故が起き、若者たちが「生きる張合い」を失ってしまう程、真面目な生き方、真実の生き方を求めている人達は、実際に報われていません。こんな世の中の現実に失望しながらも矢張これから勉強仕様とする皆さんに忠告せずにはいられない事があります。
それは
①勉強の成果が上がらない事を人のせいにしない。
②仕事に対する経験を勉強中に積む。
③毎日を無駄なく知識と体験のバランスの訓練をする。
④素直な考え方が正しい判断力に結び付く事を自覚する。
⑤自由な発想と想像力は自然に対する考えや実社会における危険管理に役立つ。
☆今日から始める皆さんのこれからの勉強は今後の仕事に良い影響を
与える筈です。
☆☆最後に「夢のある仕事が人間を育てる」と申し上げて今日の挨拶とします。