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☆ デザイナ-という職業は他の芸術よりも 幅広い努力が必要

 

デザイナ-という職業は他の芸術よりも 幅広い努力が必要

デザイナーという職業は他の芸術よりも 幅広い努力が必要

1993年 平成五年 講話 河原 碧子

今日は皆さんがデザインという新しいジャンルに挑戦する日です。
☆ここにいらっしゃる皆様の中には、果たして自分はデザイナーに向くのだろうかと心配しながら入学した方もいらっしゃるかも知れません。デザイナーになりたいと云うはっきりした目的を持った積極的な人と、細かい事が好きで手先が器用だし、きれいなものを作ったり見たりも好きだから仕事としても、向いているかも知れないと思った消極的な人がいるかも知れません。この他にデザインでも勉強してみたらと人にすすめられて勉強はあまり好きでないし「デザインでもやって見ようか」と思った人もいるかも知れません。

☆でも、皆さんに共通している点が一つあります。それは「美しいものが好きだ」という事です。心の奥に秘められた美意識と美しいものに対する憧れと「美しさを心に受けとめる精神」の高さをお互いに理解し合えるという事です。その点で貴方のデザイナ-としての「第一条件」は合格です。第二の条件は「何でも自分でやってみよう」と云うチャレンジ精神です。今あるものが「もっと便利に心地良くならないだろうか」「もっときれいに見えないだろうか」と何でも工夫する「まめ」で「新らし物好き」な性格の持ち合せも大事かも知れません。アイデアや工夫の精神を持つということは大切な条件です。第三の条件は、感覚の良さです。感覚=センスは先天的なものと云われていますが環境や教育によって洗練されていくものです。良い環境で育ち良い教育を受けても、努力なくして感覚やセンスを磨く事は出来ません。優れた才能をもっている人は日頃見えない所でも目的に沿った努力をしています。

☆デザインには常に「時代の移り変わり」という厳しい条件が付けられるので一般に「芸術」といわれているものより素早く時代を捉え反映して見せる「感性や流動性、柔軟性」が要求されます。
☆デザイナーという職業は、「華やかで、素晴らしい夢」があると思われています。
☆夢が大きく美しいものであるだけに一寸したことから自分の「才能」に対する「不安や疑い」が湧いてきて、折角始めた勉強を挫折してしまう人がいますがそれは早計です。☆最近は小さい頃からきれいな物を見たり触れたりする機会に恵まれているので「挫折感」でやめる人は少なくなりました。そんなことを考えると皆さんは 又とない幸せな時代に巡り合せたといえるでしょう。勉強していくうちに、どんどん自分が変わっていく事は面白く楽しい事です。
☆自分でも思いがけない「才能や技術」が発揮されて得意満面になりますが、そこで油断は出来ません。

☆自分の「感覚のレベル」が上がっていくに従って、ある日突然「スランプ」という落とし穴が襲ってくる時があります。それは丁度 「波のうねり」の様なもので調子の悪い時があっても 必ず良くなる時が訪れます。
☆皆さんが選んだデザイナーという職業は、充実したやり甲斐のある仕事として、ますます時代からも社会からも、要求されているのは間違いないのですから自信を持って勉強する事です。
☆これから皆さんは毎日の生活の中で良いものを出来るだけ「沢山見て」「沢山考える」「チャンス」を作る様に心がけましょう。百貨店や街の建築物、美術館や博物館、どこに行っても何を見てもデザインのヒントや勉強になるものばかりです。皆さんの周りは「過去から未来の生活」に至るまでのデザインされたものが溢れていますが何を選ぶかは、皆さんのセンスにかかっているのです。早く確実に上達する為には良い環境が必要ですが、自分の住まいや部屋を整理整頓し、環境の中に美をとり入れて行く様な身近な事で、レイアウトやセンスの訓練をして下さい。
☆学校には年限がありますから、その間に各分野で必要と思われる様な課題を出来るだけ沢山制作する様にしています。

本当に良いものというのは、好き嫌いは別として矢張り良いものだと云えます。皆さんが「良いものは良い」とわかるまでに 一つ一つの作業の中でアドバイスしていきます。
☆よいデザインの条件は、「形の感覚」「色の感覚」に於いて創造的に優れていることです。
☆「形や色彩」が素晴らしい事に加えて「創造性」を必要とする「デザイン」には「模倣」「真似」が許されないからです。デザイナーとして成功するにはどうしても想像力と独創性が必要です。
「想像力」や「独創性」は生れつきの才能であるといわれていますが、実際は創り出すことが好きで「楽しくてたまらない」という人は「才能」を思う存分発揮する事が出来るわけです。
最初は下手でもいいので思いついた事をどんどんスケッチしていくと自分でも気付かなかった能力が発見出来ます。美術や映画・演劇・テレビ・バレエ・オペラやミュージカルを鑑賞することで、色々な「ヒント」を得たり「想像力」を養うことが出来ます。様々な芸術・文学に触れることで教養を深め日々「人間としての成長」を心がけることが「良いデザイン」良い作品を生み出すことに繋がります。

☆デザインは具体的には、「形と色」によって表現されますが「形の基本となる線」は唯一つの「点」から出発しています。この点と線の相関は「ものを形づくる基本」となるばかりでなく人生の歩み方にも似ています。何かをやろうと心に決めた事は続けていくことが大事です。線が点の繋がりである様に出来る限り貴方たちの生きる目標を一本の線を完成する様に続けて下さい。一本の線の重要な役割については これから身をもって体験していくことになります。次に人間の生活環境や心理状態に多くの影響を与える理由で関心が高くなっている色彩について簡単に述べて見ましょう。まず色というものは光が当らない場所では見る事が出来ません。科学者は色を「物の表面に当った光の反射作用」であると云います。白い透明な水の滴や透明なしゃぼん玉・シャンデリアのガラス等に光が反射すると、宝石の様に美しい色に変化することは誰方でも知っています。例えば、石を池に投げると水面に波紋が広がり音や電気のような波長を示します。

☆色を見せる光も、この「波」の性質をそなえています。「波」の長さの違いがそれぞれ異なった色を表わします。
雨上がりの空の虹に見える太陽のスペクトル(分光)には赤・橙・黄・緑・青・藍・紫 があり波長の長い順番になっています。色の波長の種類を一番多く分ける事が出来るのは人間です。
実際に使われる色だけでも三百種類以上あります。それぞれの色に全部名前を付けるのはとても難しい仕事です。
色は、学問的に色相/明度/彩度という三つの性質があります。
☆色相(Hue)は色の名前の事です。空の上から虹を見ると円い環のようになっています。
☆その「虹の環」を二十四に分けたのが「色相環」という「色の環」です。
この色相環をマンセル色体系では100に分けていて、分けられた色には 緑や青・紫と赤・黄と橙などの色の違いを示すために「色相番号」をつけています。

☆明度は色のもつ明るさのことです。明るいものは白く暗いものは黒く表現され明度によって色の明暗が示されています。明度は黒から白の間を「十一の段階」に分け、この十一段階から白と黒を除いた「九段階」をスケールにして色の明るさを計るのです。明るい色を「明度が高い色」と云い、暗い色を「明度が低い色」と云います。色を使って濃淡を表わすのは明るい色を加えたり、暗い色を加えます。
☆彩度(Chroma)は、色の強さ・深さ・鮮やかさ・明確さを表わします。☆太陽スペクトルの中の赤は一番純粋な赤です。この純粋な赤からグレーに最も近い赤までの間を九つの段階に分けて彩度の基準にしています。
☆太陽スペクトルの色は、どの色も純粋な色ですが純粋な色に夫々白や黒や他の色を混ぜると元の色の彩度が減少していきます。

☆「緑や紫」の様に混ぜ合せて出来た色は5段階にしか分けられません。
☆「色相/明度/彩度」の段階で、僅かしか表わせない様な色は☆色調という言葉を使います。
明るい色は「高い色調」、暗い色は「低い色調」といいます。
次に「暖色と寒色」という色の持つ雰囲気を分けるものがあります。「寒色」はグレー・青・緑。白などの様に空や水や雪を連想し、冷たさや寒さを表わします。太陽や火や春の花の色を表現する赤や橙、黄色の様に暖かい明るい色を「暖色」といいます。

暖色と寒色には段階があって、「暗い赤」は、明るい赤より暖かく見え「明るい青」は暗い青より冷たく見えます。 しかし「緑がかった橙」や「赤味がかった紫」は寒色と暖色の区別がつきません。
この二つの色は「暖かい雰囲気の色の中」で使うと「寒い」感じに見え「寒い雰囲気の色の中」で使うと「暖かい」印象に見えます。白を加えると、どんな色でも淡い色になり明るくなります。
黒を加えると濃い色になり元の色より暗くなります。
白と黒は太陽スペクトルには表れていませんが、他の色と同じように見分けることが出来ます。しかしスペクトルに現れる「赤や青や黄色」とは性格が違います。白や黒には「色相や彩度」がなく「明度」だけで表わされるからです。

☆「色相も彩度も無いもの」にグレーがあります。
グレーは「黒と白」と混ぜ「補色同志」を混ぜ合わせても出来ます。☆「補色」とは、お互いに全く似ていない色の事で「色環」では反対側に表れている色を云います。グレーも殆んど白に近いものから黒に近いもの迄、明度段階が分かれていてシルバーグレー、チャコールグレー等と呼ばれていて「補色同志」を混ぜるとグレーになります。
☆「赤と黄と青」を混ぜると、どんな色でも作り出せるので、この三原色の事を一次色といいます。
しかし虹の七色こそ、一次色であるという説もあります。

☆色の中には赤やオレンジや黄色のように「浮き上がってくる色」「飛び出してくるような色」があり「進出色」と呼ばれています。進出色は、攻撃的で熱く 刺激的です。対して 「退いて行く様な」「沈んでいくような」「静かな安らぎのある」色の事を後退色と云います。例えば、青緑や菫色です。色を実際のデザインに生かす為には、色彩を理論的に学ぶ事だけが正しいとは云えません。色は神秘的であり、魔術師のように人の心を操ります。その表現する処は化粧やファッションに応用されているばかりでなく地球上の全てに及んでいます。
色の性格を理解する事は、これから皆さんがデザインの仕事の中で色を扱う上に於いて、大切な原点となります。生命力にあふれる太陽の赤。情熱的であり心を たかぶらせ、陽気で若さにあふれる色です。桜の花のような明るいピンクから苺の様な濃い赤まであります。
☆色が顧客にもたらす心理的効果の事も考え、一つひとつ考えていかなければなりません。日本人が純白よりもベージュやオフホワイトや卵色の様に色味のある白を好むのは光の反射の弱い空のあまり明るくない環境のせいかもしれません。

もう一つの色「グレー」はとても落着きのある色でどの色とも良く合い便利で上品な色です。グレーは白に近いものから黒に近いもの等、他の色をまぜた沢山の色があります。例えば、シルバーグレーやチャコールグレー、ダークグレー等、繊細な性格をもっているので扱い方も無数で日本の風土にはどの色と組合わせても調和し好まれています。しかし色としては優しすぎて自主性、自立性に乏しいといえるので時代の移り変わりと共に「日本人の好み」もどのように変わって行くか判りません。色を想像する場合に最もわかりやすいのは、自然の風景です。
なつかしい唱歌の歌詞に、「菜の花畑に入日うすれ 見わたす山の端かすみ深し」というのがあります。
霞のかかったうす緑の山の麓の満開のピンクの桜・ひろがる黄色の菜の花風景全部が美しく彩られています。まさに色は生きていると云えます。幼い時「雛の日」のお座敷の情景を思い出して見ましょう。

金色の絵屏風が立てられた桃の花の飾られた段の上に緋もうせんが敷かれて小さな薪絵の食器類や箪笥や衣桁などの調度品や雛の道具が並べられ、燭台に立てられたローソクのまぶしさの中でお寿司や菓子を食べる女の子達の衣装や雛人形の華やかな色彩が一度に目に飛び込んでくる様子に幼心ながらもその雰囲気にうっとりしたのではないでしょうか。家庭生活の思い出一つ取り上げて見ても既に強烈な色の洗礼を受けている事がわかります。色の使い方は、科学的な理論に裏付けられるというよりも「優れた感覚の作り出す調和」の「見た目の心地良さ」の方が大切にされます。デザイナーにとって大切な事は単なる「好みの問題」からエレガントな「センス」や「バランス」のとれた調和に育て上げることです。この調和は「自然とその法則の観察」から生まれます。調和は自然の中のバラエティ/バランス/リズム/統一/適合性を、発見する事にあります。

単なる「好み」から洗練された「センス」を高める訓練はどうしたら出来るのでしょうか。
日頃センスの良くないものばかりを見ていると、それが良いものだと思い込んでしまう恐れがあります。
良い調和の物は見ていて「心地良く、快いもの」ですから、そんな例を沢山見て良い環境で生活する様に心がけるのは大切な事です。百の講義より一つの実例の方が有効である事は「百聞は一見に如かず」の諺でもわかります。よいものを見る目は「よいものを作る能力」につながります。
何度も云うようですが「センス」はデザイナーにとっての「生命」です。沢山の形容詞が出て来ましたが色や形だけでなく言葉の意味も理解して豊かな気持ちで勉強して行きましょう。
☆これから皆さんがデザインを学んで行く上での必要な心構えをお話しました。
どうか初心を忘れることなく今日からの毎日を有意義に過ごして行く事を願って皆さんをお迎えする挨拶とします。

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